





サイズ:H35cm x W 18cm x D 28cm
素材、技法:鹿の頭骨にアクリルペイント、彫刻、木
制作年:2019
Deer’s Memory
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
鹿の頭骨に時間を刻み込み、金色には浄土を託した。
頭骨は適正な狩猟で得たものを猟師から譲っていただいた。
日本では害獣駆除で年間5万頭以上の鹿が仕留められるが、その捕獲頭数に対しての利用率は10%程度と極めて低く、その多くが廃棄されている状況だ。
害獣駆除も食肉習慣そのものも非常に神経質な問題であり、下手をすると文明論にすり替わり本質はすぐに雲散霧消してしまう。
しかし、大事なことは「一つの命が人間の理由で人間により仕留められたということ」である。その最後を、人間により捨てられるのではなく、人間により意味あるものにしたいと考えた。無論、土へ戻すことは自然のサイクルにおいて最も適切な処理のされ方だと思うが、自分達の都合で仕留めた鹿を食べもせずに自然によろしくではあまりに無責任であるように感じる。
猟師もただ撃ち殺すのではない。「今でも打つ時は常に緊張している」ベテランの猟師であればあるほど、「食べるということは命を頂くことである」ということが深く理解されていると感じる。一つの死を通して私たちがどのように地球と関わり合って生きているのか、ひいては限りある土地と資源の奪い合いで無駄な同種間の殺し合いを繰り返してきた我々への疑問を考えるきっかけを作ること、それがアーティストである自分に与えられた使命であるように思っている。
骨に対峙した時、すぐには手を付けられなかった。私は無宗教だが、祈り、向き合い、考えるともなしに考え続けて手を伸ばしたが、生前の営みが最も顕著に刻まれている歯には最後まで手をつけることはできなかった。